次に何と口に出すのか、それは透明の薄いコップに透かすように緩くカーブを描いて、過ごした歴史に相応に察せられた。否、たとえティエリアでなくとも、やはりフェルトには続く言葉が分かるに違いなかった。何故なら、かつての自分が今隣で踏み出すつま先の行き先を泳がせているのだ。
「……並ぶのか?」
「……並ぶよ」
喧騒も潜り込んでしまえば近い潮騒に似て、道路に満ちる他愛ない声の波をすり抜けていくのは、記憶の印象よりも随分と容易いものだった。ピンクにイエローにミントブルー、華やかで幸せで我が儘な色が踊る看板がゆっくり瞬きをしながら大勢の人々を見下ろしている。その中には当然のようにティエリアとフェルトも含まれていて、まるで崩れた細胞の一部が元に戻るように列のしっぽに続いた。
「ミレイナが食べたいって言ってたんだもの。代わりに食べてこなきゃ」
「僕たちが食べたところで、彼女が美味しいと感じられるわけではないだろう」
「じゃあ、わたしが食べたいの」
「はじめからそう言ってくれ」